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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1836号 判決 1960年10月24日

原告

大阪府民信用組合

大和銀行

事実

原告は被告振出名義の額面合計五三八、五五〇円の約束手形二通を受取人Kから白地式裏書によつて取得し、被告に対しその支払を求めた。そして「かりに被告自身が本件手形を振り出したものではないとしても、被告より被告名義で手形振出の権限を与えられていた訴外Fが、被告に代り右各手形に被告名を記入し被告の印鑑を捺印してこれを振出したものである。

またかりにそうでないとしても、被告が右Fを機関として被告名を記名捺印せしめ右手形を振出したものである。」と主張した。

被告は次のように述べた。

「(一)被告は原告主張のごとき手形を発行したことはない。

(二)被告はFに本件手形の振出を委任したこともなければ、また同人を機関としたこともない。

ただ、被告はFに対して自己の氏名の使用を許したことはあるが、これは単に被告名義を訴外株式会社F商店の別名として使用することを許諾したものにすぎず、被告名義の手形振出までも許したものではない。このことは、Fが被告の雇傭主であり右要求を拒絶しがたい事情にあつたこと、被告はFに右の名義使用を許しても、単に銀行取引殊に銀行預金の名義に用いるだけであろうという程度の知識しか有していなかつたこと、被告は手形振出の事情・経過・その金額等についてなんら報告を受けていないし、割引金も一切受領していないことなどの事実から考えれば容易に肯認できるであろう。

(三)原告は金融機関でありながら、手形上振出人と記載されている被告について一回の調査もなさずに本件手形の割引をなしたことは、原告が被告名義は架空であり被告が真の振出人でないことを知つていたことを示すものである。」

理由

証拠をあわせて考えれば、訴外Fは昭和三一年一月一六日および同年二月五日に約束手形用紙の所定記入欄に原告主張どおりの記載をなし、振出人欄にそれぞれ被告の氏名を記入しその名下に同被告名義の印章を押捺して約束手形二通の作成を完成し、これを訴外Kに振出したこと、原告は右訴外人から白地式裏書によつて右手形二通を譲り受け現にその所持人であること、原告は右手形を満期に支払場所にそれぞれ呈示し支払を拒絶されたことが認められる。

しかして、被告が訴外Fに対して銀行取引のために自己の名義の使用を許諾していたことは当事者間に争いがなく、右事実に証拠を綜合すれば、訴外株式会社Fの代表取締役であつた訴外Fが昭和二六年頃より同会社の金融の必要上、被告の承諾のもとに大和銀行に被告名義の当座預金口座を設けて銀行取引をなし、営業に関する手形の振出にもしばしば被告名義を使用していたこと、被告は右手形振出になんら異議を唱えたことがなかつたことが認められる。したがつて被告は被告名義の手形振出についても暗黙のうちに許諾していたものといわなければならない。

ところで、Fの証言および被告本人尋問の結果によれば、被告および訴外Fは被告名義を訴外会社の銀行取引上の別名として使用する意思であつたと認められるけれども、いやしくも他人に対し銀行取引につき自己名義を使用し、自己名義の手形行為を許したものはその範囲内において善意の第三者に対してはその結果につき責任を負うべく、内心の意思を以て第三者に対抗することができないことは、手形法上の法理をうんぬんするまでもなく明らかである。そして、被告は、原告が右の事実を知悉していた旨の悪意の抗弁を提出しているが、証拠によれば原告が右事実を知らなかつたことがあきらかであり、かつ原告は本件手形の割引に際し金融機関として通常なすべき措置をとつたことが認められ、被告を本件手形の振出人と信ずるにつき正当な理由があつたといえるので、被告抗弁は採用することができない。

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